百足 二段

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最後の核心を叫びながら止めた時、それは勝利の雄叫びとなり山間に響き渡った。

我々は勝ったのだ。

「我々」とは、私と百足に他ならない。そこには共に戦った者への歓喜が確かに存在した。

王様の耳はトマの耳』より抜粋

 

つーわけでですね、自己最高最難課題を自己最長トライの末、ゲットした次第であります。

前回の粘着質な情熱的エントリーで述べたように、四日間のトライの末敗退、その後五日目、更に六日目を経て遂に悲願達成。ま、とりあえず五日目から話させてください。

 

五日目、ムーブは向こうからやってきた

 
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その日は時間的制約から昼過ぎには下山の予定。滞在時間は4時間程度を見込んだ(往復の時間も4時間なんだぜ)。しかし迷うことなく百足へ。ええ、変態ですから。

ところが第一核心のピンチが取れない。止まるとシビレるほどの「結合感」が得られるムーブがサッパリ決まらない。前回セミアーケで保持すると結論づけたカンテの感触が悪いのだ。

長期戦になると一旦固まったムーブに迷いや疑念が生じることはママある。しかし放置しては先に進めない、気持ちを切り替えて再度探る。

すると画期的な「途中トライ方法」を発見。四日目までの自分が見たらチートと罵りたくなるレベルのショートカットを見つけてしまった。

そして件のセミアーケに関しては

  • 重心を下げてトウフックを活用する事が本質
  • 重心を下げると腕が伸びる
  • 結果的にセミアーケだった

ことが判明。

典型的な原因と結果の逆転である。初歩的なミスに笑うしかないが、ロジックの再構築を経て、より強固なロジックとなったはず。たぶん。

その後、ショートカットをフル活用してピンチ以降のムーブを最適化。しかしそこで予想だにしなかった新ムーブに遭遇。諦めていたリップポッケがスタティックに取れるようになった。最後はダイノでと思う気持ちもあったが、どの道リップへは足切れ必須な上、このムーブもテクニカルな事は間違いないと採用。

こうして全てのピースが揃ったが、時間だけが足りなかった。2回目のトライでリップポッケを止めるも、ヨレで無駄に刻んだ挙句、最後の一手が出ずフォール。

珍しく居合わせたクライマー兄貴に「次は絶対いけるね!」と励まされるが帰らねばならない事を伝えると言葉を失っていた。完登を目前にして昼過ぎに帰る変態を彼はきっと忘れないはずだ。

しかし帰りのバスの中、新たな発見と収穫に胸は高鳴っていた。もう無いと思っていたムーブがひょんなことから現れる。いやーあるもんですなームーブって。

 

六日目、ムーブの余韻

 
そして六日目。今度も時間的に余裕はなかったが、もう焦りはなかった。後は如何にしてイメージどおりにムーブを繋げるかが重要だった。練りに練ったムーブを完全な形で出したい、言いかえるなら「美しく」登りたかった。前日に受講したチバトレのアップをこなし、各ムーブを確認した後、時を待った。

14時、木漏れ日がまばらに百足を照らしていた。スタートポジションに座ってホールドを確認すると、集中力も緊張感も無く、だた漠然と登れる予感とムーブへの意欲が湧き上がってきた。

一手目。軽く息を吐き、足を拾う。丁寧に下部のトラバースを繋げ、直登パートへ。ここからは一瞬たりとも気の抜けないハードムーブが連続する。最初にして最大の核心である、バランシーなトウフックからデッドポイントを気合とともに止める。さらにスリッピーな左足を残しながら、五日目に見つけた右足をセット。過去最高の完成度でムーブが繋がる。淀みないリズムを保つように、最後の核心であるリップポッケへ渾身のデッドポイント。最高潮に達する。しかしまだ気は抜けない。両手とも限界近くまでパンプしているが最後の気力を振り絞り、リップへ飛んだ。マントルを返し岩の上に立つと、ムーブの余韻のようなものが体に残った。

 

 
丁寧にブラッシングしながら、安堵と少しの寂しさを感じた。

 

Push the Limit

 
こうして「百足 二段」は六日間の死闘の末、レッドポイントする事が出来た。

繰り返すが勝ったのは僕と百足だ。僕は普段、「課題を落とす」という表現はあまりしない。その理由を深く考えることもなかったが、百足を登ることで何となく解ったような気がする。

来年も、素晴らしい課題と出会うだろう。その時はまた、課題とともに己の限界に挑もう。

 


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