凍てつく関東を離れ、さらば東京、こんにちは北山公園。年末は温暖な関西でエンジョイクライミング。それが一億年と二千年前からの習わしと言ふもの。と言う訳でこのエントリーは本邦が世界に誇る超特急、新幹線の中でしたためております。
年の瀬がせまり、私は焦っていた。当初の予定では二段を登り、5.12aをこなし、こたつでうたた寝をしているはずであった。しかし運命とは酷なものである。股関節の不調から膝靭帯の損傷と度重なる故障により、もはや実現性のない目標に思われた。
怪我明け(完治ってわけじゃないけど)の御岳では「忍者クライマー返し」を撃ちこむが、一日一手という、高度な訓練を受けた牛歩戦術が展開。「忍者クライマー返し」は二段にしてはムーブ強度が低いと言われるが、ご存知の通り、パーツ練習が難しい課題。初めてトライする二段としてはそういう意味で相性は良くない(気づくの遅せーよ)。結局そのまま年内忍クラは果たせなかった。
しかし意外な事にジムリードの調子は悪くなかった。いや、むしろ上昇の気配すら漂っていた。前回、怪我明けにRPグレードを一気に2段階更新したのはお伝えした通り。一般的に3,4級のボルダー力があれば5.12aは登れると言われる(ロープを着ければ凡人以下な段クライマーも少なくないが)。この基準に従えば、幾多の初段を手中に収めてきた私が、5.12aに苦戦するなど本来あってはいけないことである。私の脳内平山ユージ先生も「そうだよ!ボルダー力にリード力が追いついてきたんだよ!絶対5.12a登れるよ!」と爽やかに仰っていた。
隠して、忘年会シーズンまっただ中の帝都は穢土川橋Twallを最終決戦の場所として挑んだのであった。狙うは前回触れたランジ&デッド特盛の赤ホールド!まずは核心ランジを入念にオブザベーションするべくフロアーへ降り立った。
ん?あれ??赤、は??
運命とは何故にかくも酷なのか。まさかの壁替え。驚愕である。我が愛しきの赤ホールドはピンク色に衣替えし、よそよそしい眼差しをこちらに向けている。狼狽する私は何処からとも無く、「あ、ほら!中学のときに(二週間だけ)付き合ってた、ほら俺だよ俺!」と虚しく取り繕う声を聞いた気がした。
とにかく気持ちを落ち着かせるべく、135度に居る細E氏に状況を説明しに行く。すると氏は「じゃあこの長モノやろうよ。ちょうど5.12aだよ」と私の前腕をENDさせるのが目的としか思えない提案をしてくる。いかん、ここに居てはやばい。
気を取り直してオブザベーションを開始する。右端からスタートし、左へトラバース。再度右にトラバースしてゴール。蛇行したルートである。観た所悪そうなホールドは少ない。前回の様なランジもない。一方で明らかに核心部は上部に集中している。そして中間部に顕著なレストポイント。間違いない、ヨレ核心である。
ヨレ核心、クリップ核心、恐怖核心はボルダリストがリードに挑む際の核心の三原色である。つくづく運命は酷だ。
だが、運命は残酷なばかりではなかった。この日唯一にして最強の幸運が訪れる。ビレイヤー、I上氏の登場である。I上氏は覚えてないっぽいが私が初めてリードを教わったときにI上氏にはお世話になっている。登ってよし、ビレイよし、のナイスガイである。こうして最強のバックアップを得て、1try目に入った。
予想通りホールドは良く、第一トラバースに入る。強引に突破できそうだが、ここはムーブを固めてパワーを温存しなければならない。テンションしてムーブを固める。正解ムーブではないと思われるが、消耗しないムーブを見つける。左パートに入ると予想通り完全なレストポイントが待つ。そして左パート上部から右へのトラバースが核心である。ここもテンションでムーブを探る。クロスからガストン、マッチへと繋げるのが正解ムーブのようだ。
そして最終クリップ。だが次のホールドが地味に遠い。しかも見るからに甘そう。核心をこなした後にこれを保持出来るのだろうか。やはりヨレ核心である。可能な限りスタティックに出すべくフラッギングやロックオフを試みるが最終的にデッドで正対。またしても卓越した正対クライマーセンスを露呈してしまった。
とりあえずバラしたので決戦に備えて長レスト。細E氏がやって来たのでムーブの解説。BCAAをキメて万を時して挑む。
そして時が満ちる。決戦の時だ。
ギャラリーに細E氏とワイフ。ビレイヤーにI上氏。普段より背後が温かい。特にI上氏のビレイは本当に心強い。
そしてスタート。順調にクリップを進めていくが、どうやら細E氏に解説したムーブと異なるらしい。事件(クライミング)は現場で起こっている。これでいいのだ。そして第一トラバースへと突入。ここでも細E氏と練ったお洒落ムーブを華麗にスルー。カウンターバランス?なにそれおいしいの??
左パート最下部でレスト。遮二無二シェイクをするより、ゆっくりリリースした方がレスト効率がいい。最近気付いたテクニックである。
そして再開。この後に休める場所はない。左パート上部へ至りここから核心部が始まる。最上部のカチをクロスで取るはずがムーブが起こせず飛ばしで取る。そしてマッチ。次がハイライトとなるトラバース。右手でガストンを取るデッドムーブ、の予定がまさかの左手クロス取り。
ギャラリーからどよめきが起こる。「オブザベーションとは何だったのか」「あのムーブ解説全部嘘じゃん」「終わった」
だがギャラリーの落胆とは裏腹に私には切り札があった。左足を上げればマッチへいける(はず)。厳しい体勢から狭い足を上げ、間髪入れずマッチする。バチ効きの感触が指先から伝わる。
だがまだ気は抜けない。最後の難関、地味なあいつを保持しなくてはならない。ここで弱気になっては負ける。最後は気持ちの勝負だ。しかし、うーん、いけるのか?と思いそうになった瞬間、「イケるよー」とI上氏の声援が。細E氏の「ガンバガンバ」が後に続く。その声に押されるように渾身のデッド。完全に決まる。
こうしてギリギリのタイミングで5.12aを達成。しかも1day2tryRPのおまけ付き。
今回の勝因は何と言っても皆様の熱い声援でございます。クライミングは素敵な仲間たちが居てこそだと強く感じた次第であります。2014年もこの気持ちを忘れず皆様と一緒にナイスでガンバなクライミングライフを過ごせるように祈りつつ、皆様よいお年を。