初めて沢に行ったのは4年前、某隊長に誘われてのことだった。今だからこそ明かすが、「え!? 沢っすか? 僕ぁ乾いた壁で…」とか「やー、そんなマイナーっつーか地味なアクティビティする人、実在するんすね」ってな塩梅であった。
んで、「興味は薄いが何かしら得れるものがあるかも知れない」という極めて後ろ向きな姿勢で参加することとなった。
以来、夏とは沢のために神が与えたもうた季節だと確信している。
だが、登攀的な日帰り遡行は行えど、未だ「沢泊」なるものは未体験であった。沢の醍醐味は沢泊にある、とは多くのガイドブックや技術書でも繰り返し述べられている。沢に泊まらずして神からの恩恵を成就したとは言えない。沢に泊まりたい、そして焚き火の横で雑魚寝がしたい。と、いつしか強く思うようになっていた。
入渓
お盆に入ったばかりの当日は薄曇り。西沢渓谷を鶏冠谷出会まで歩く。強烈な太陽の下でダイブする気120%だったが、この時点で40%くらいに下方修正。河原で装備を整え入渓する。
下流部は左岸の旧登山道を辿るのが一般的だが、そんなことも知らずにザブザブと遡行する。いくつかの小滝を越えたところで泳ぎなしでは突破困難な瀞に行き着く。右岸を探るも悪い。結局左岸の旧登山道まで上がりホラ貝のゴルジュまで。
ホラ貝のゴルジュ
最近8G氏が遡行したホラ貝のゴルジュは、外からでは内部の様子が全く分からない。いつかは行ってみたいが今日みたいな薄曇りの日でないことを願う。一服入れたのち、旧登山道から山の神まで。山の神で手を合わせてから行きたかったがそれらしいものを見つけられず。適当に沢に降りる。
そのまま開けたゴーロ帯を進むと乙女の滝が見えてくる。冬場はアイスのゲレンデになるらしい。思ったよりも傾斜の寝た滝だった。
更に歩くと東のナメ沢がどどーん見えてくる。クライミングシューズで登りたくなる長いスラブ。秋頃にほんちゃんとして訪れてみたい。
この辺りから比較的深い瀞が現れはじめる。相変わらず薄曇りのため積極的に濡れる気にはならない。S兄貴と交代しながらロシアンルーレットライクに「深いっすかー?足付きますかー?」と探りながら遡行。
幸いなことにドボンだとか転覆とかは免れる。ちなみに手持ちのカメラはタフネス系ではない。何があっても水没させるわけにはいかないのだ。
魚留の滝、千畳のナメ
魚留の滝で一服入れる。「あのスラブを水線突破できるだろうか?」とか考えてみるが大人しく左から上がる。落ち口から下を覗いたが、うん、ないね!
滝上はシケイン状に屈曲し、抜けるとそこは千畳のナメ。
視界の先の更にその先までナメが続いている。最高の癒し系ナメである。
上部の多段スラブは水線突破で上がる。やや滑りが強く悪い。
両門の滝
そして両門の滝。サラサラと滑らかに水流が流れてくる。一見優しげな雰囲気だか直下に入り込むとそれなりの瀑風を受ける。ひとしきり遊んだ後、今夜の幕営地を求めて先へと進む。
幕営
幕営地を求めて高度を上げると立派なカマドを発見。周囲には乾いた流木多数。水辺も不便ではない距離感。これ以上の好物件が他にあるだろうか。いや、ない。さっそく野営準備にとりかかる。
まずは本日のホワイトベルグ。
タマゴ茸を採取。笠が開き切っているため香りは飛んでしまっていた。
パエリアとポトフ。
そして夜はふけていく…
二日目
夜通し燃えていた焚き火は朝でも安定の火力。朝食を済まし残りの行程を進む。荷物は軽くなっている筈だが久しぶりの山歩きでややヨレを感じる。幕営地以降は倒木が増えてくるが立派な滝も健在。
木賊谷と出会うといよいよ遡行終了も目前。最後のナメを登っていく。
水流がなくなる直前に雲の間に青空が見え、秋を感じさせる風が吹いていた。ポンプ小屋で登攀装備を解除、甲武信小屋まで詰め下山路を下った。