タグ別アーカイブ: 聖人岩

桜とボルダーと先輩風

IMG_4775

 

百戦錬磨のアルパインクライマー・タロー氏がボルダリングに興味を抱き始めた。昨今のクライミングキャリアパスの流れに全力で逆らっているのは流石としか言いようがない。

というわけで週末は時間的制約からご近所、聖人岩。氏曰く「とりあえず1級か初段を宿題に…」とのこと。

私と言えば「こいつぁ、先輩風を吹かせる千載一遇のチャンス。ボルダリストの底力をアルパインクライマーに見せつけてやるぜ」とばかりに桜が咲き乱れる越生の田園でほくそ笑んだ。

 

柚子 1級/初段 RP

IMG_4750

 

およそ一年ぶりに触れる石灰岩はやはり厳しい。久しく忘れていた尖ったエッジとスパイクのようなコルネ、乏しいフリクションにゆっくりと感覚をならしてゆく。

一通りアップを済ませて本日のターゲット「柚子 1級/初段」に取りつく。

しかしラインが判然としない。スタート位置から手を伸ばせば7級ラインに合流出来てしまうが、あまりにも簡単になるので却下。スタート後直上し、リップで7級と合流するラインに落ち着く。

タロー君がどう考えても手首に悪そうなアンダーカチに執心しているのを横目に、豪快なランジムーブを提案。検討の末に採用を勝ち取り、先輩風を吹かせることに成功する。

だが、そう簡単にランジは止まらない。どうにも出にくい体勢から、甘いホールドとイマイチ踏み切れないスメアに耐えて飛び出す。振られも尋常ではなく落ちる度に指皮がざっくりと削られていく。

やってればそのうち止まるだろうと繋げトライを2回出すが2回ともリップを捉えてフォール。指皮の消耗も激しく、やや消極的になっているとタロー君が繋げトライ開始。

スムーズな足送りから上部のサイドカチまで淀みなくムーブを繋ぐ。ランジ体勢に入り、不安と気合いがヒシヒシと伝わってくる。次の瞬間、リップを鷲掴みにすると同時に吠えながら気合いのトップアウト。

まじか…吹かした筈の先輩風は一瞬にしてかき消されてしまった。

こうなっては最早あとには引けない。気持ちを入れなおして三度目の正直でリップを止めて完登。

それにしてもこの男、底が知れない。

 

img1

 

クールダウン

首尾よく成果を得たあとはゆったりリード。数年来宿題となっている「ウェーブ 5.12a」を冷やかすが、中途半端な気持ちで触るもんじゃないと痛感。タロー君も長年宿題となっている「貂が見ていた」をトライするが二人してヨレを痛感するばかり。

最後に「ダイエットシェイク」から「鯖唐」に抜ける自由なラインを上って終了。

帰路も満開の桜を愛でながら最高のドライブ日和を楽しみましたとさ。

 

IMG_4770

百足 二段

IMG_0777

最後の核心を叫びながら止めた時、それは勝利の雄叫びとなり山間に響き渡った。

我々は勝ったのだ。

「我々」とは、私と百足に他ならない。そこには共に戦った者への歓喜が確かに存在した。

王様の耳はトマの耳』より抜粋

 

つーわけでですね、自己最高最難課題を自己最長トライの末、ゲットした次第であります。

前回の粘着質な情熱的エントリーで述べたように、四日間のトライの末敗退、その後五日目、更に六日目を経て遂に悲願達成。ま、とりあえず五日目から話させてください。

 

五日目、ムーブは向こうからやってきた

 
IMG_0776

 
その日は時間的制約から昼過ぎには下山の予定。滞在時間は4時間程度を見込んだ(往復の時間も4時間なんだぜ)。しかし迷うことなく百足へ。ええ、変態ですから。

ところが第一核心のピンチが取れない。止まるとシビレるほどの「結合感」が得られるムーブがサッパリ決まらない。前回セミアーケで保持すると結論づけたカンテの感触が悪いのだ。

長期戦になると一旦固まったムーブに迷いや疑念が生じることはママある。しかし放置しては先に進めない、気持ちを切り替えて再度探る。

すると画期的な「途中トライ方法」を発見。四日目までの自分が見たらチートと罵りたくなるレベルのショートカットを見つけてしまった。

そして件のセミアーケに関しては

  • 重心を下げてトウフックを活用する事が本質
  • 重心を下げると腕が伸びる
  • 結果的にセミアーケだった

ことが判明。

典型的な原因と結果の逆転である。初歩的なミスに笑うしかないが、ロジックの再構築を経て、より強固なロジックとなったはず。たぶん。

その後、ショートカットをフル活用してピンチ以降のムーブを最適化。しかしそこで予想だにしなかった新ムーブに遭遇。諦めていたリップポッケがスタティックに取れるようになった。最後はダイノでと思う気持ちもあったが、どの道リップへは足切れ必須な上、このムーブもテクニカルな事は間違いないと採用。

こうして全てのピースが揃ったが、時間だけが足りなかった。2回目のトライでリップポッケを止めるも、ヨレで無駄に刻んだ挙句、最後の一手が出ずフォール。

珍しく居合わせたクライマー兄貴に「次は絶対いけるね!」と励まされるが帰らねばならない事を伝えると言葉を失っていた。完登を目前にして昼過ぎに帰る変態を彼はきっと忘れないはずだ。

しかし帰りのバスの中、新たな発見と収穫に胸は高鳴っていた。もう無いと思っていたムーブがひょんなことから現れる。いやーあるもんですなームーブって。

 

六日目、ムーブの余韻

 
そして六日目。今度も時間的に余裕はなかったが、もう焦りはなかった。後は如何にしてイメージどおりにムーブを繋げるかが重要だった。練りに練ったムーブを完全な形で出したい、言いかえるなら「美しく」登りたかった。前日に受講したチバトレのアップをこなし、各ムーブを確認した後、時を待った。

14時、木漏れ日がまばらに百足を照らしていた。スタートポジションに座ってホールドを確認すると、集中力も緊張感も無く、だた漠然と登れる予感とムーブへの意欲が湧き上がってきた。

一手目。軽く息を吐き、足を拾う。丁寧に下部のトラバースを繋げ、直登パートへ。ここからは一瞬たりとも気の抜けないハードムーブが連続する。最初にして最大の核心である、バランシーなトウフックからデッドポイントを気合とともに止める。さらにスリッピーな左足を残しながら、五日目に見つけた右足をセット。過去最高の完成度でムーブが繋がる。淀みないリズムを保つように、最後の核心であるリップポッケへ渾身のデッドポイント。最高潮に達する。しかしまだ気は抜けない。両手とも限界近くまでパンプしているが最後の気力を振り絞り、リップへ飛んだ。マントルを返し岩の上に立つと、ムーブの余韻のようなものが体に残った。

 

 
丁寧にブラッシングしながら、安堵と少しの寂しさを感じた。

 

Push the Limit

 
こうして「百足 二段」は六日間の死闘の末、レッドポイントする事が出来た。

繰り返すが勝ったのは僕と百足だ。僕は普段、「課題を落とす」という表現はあまりしない。その理由を深く考えることもなかったが、百足を登ることで何となく解ったような気がする。

来年も、素晴らしい課題と出会うだろう。その時はまた、課題とともに己の限界に挑もう。

 

Load Of The Centipede

IMG_0731

 

まず現状を整理しよう。9月に「黒い森 初段」と「フリークエントフライヤーズ 初段」を登って以来、初段は愚か1級も登れていない。この間、「ゔぉっく」「算術」「エクリプス」「スラッシュフェイス」をトライしてもまったく手が進まず、「スラッシュフェイス」に至っては後退を疑うほどだった。

年内に二段を登ると息巻いたものの、全く不甲斐ない出来がつづいた。このエントリーはそんな長いトンネルを克服したよ!という内容ではなく(そうならいいのにね)、年末のクソ寒い雨が降る土曜日に吐き出す、季節外れな暑苦しい決意だ。

 

百足 二段

 

本当は登れた時まで取っておくつもりだったが「百足 二段」の事を書きたい。

140度に及ぶ強傾斜を、石灰岩特有の多彩なホールドを辿り、テクニカルかつダイナミックなムーブを駆使して登る格好良すぎる課題だ。

 

聖人岩というマイナーな岩場で、僅か4,5本の課題があるだけの小さなボルダーを訪れる人はほとんどいない。しかしそれは、たった一人で課題と向き合うにはこれ以上無い条件だった。

正直に告白すると、「年内二段」への焦燥感から近場の岩場なら何でもよかった。しかし、「二段を登りたい」から「百足を登りたい」に意識が変化するのに時間はかからなかった。それほどまでに百足は濃厚な課題だった。

一日目に「Thulala 初段」のムーブを解決し、二日目に百足のSDスタートからThulalaへのリンクまでを解決した。そして三日目、つなげトライに至るが最後のリップポッケにミートせず敗退。ポッケの確度が低く、より奥のリップに可能性を見いだすが、最後にランジというハードムーブに迷いが残った。だが、ジムで右手中指をパキり、幸か不幸かランジ一択となった。そして四日目、満を持して挑んだ1トライ目はギリギリのランジでリップを叩いた。しかし右手は止まる事無く滑り落ちた。あと2cm、いや1cmだろうか。悔しさのあまり、叫ばずにはいられなかった。その後、30分レストを挟みながらインターバルトライを続けるが、なぜかこれまで悪くなかったカンテの感触が定まらず、四日目の敗退が決定した。

 

rip

 

さらっと四日目とか言ってるが、そう四日間「百足」だけを打っているのだ。割と異常かもしれない。初日〜二日目まではムーブの進展も著しく、完登に至らずとも大きな期待感を得て帰路につく事が出来る。しかしその後は、最適化が進んだとは言え、強度の強いムーブを繋げるのは1日に5トライが限界だ。近所とは言え片道二時間を費やし、魂を削る5トライを、なけなしの5トライを、振り絞るため五日目に挑むのか、挑めるのか、帰りのバスの中でテーピングをはがしながら思いが去来した。

しかし、たったひとつの課題を黙々と打ち続けるのが自分にとってクライミングの原点であり、僕は原点回帰を必要としていた。時間が経つにつれ百足のムーブを反芻する事が多くなり、気がつけば越生の天気予報ばかり眺めている。そして違和感を感じたカンテの原因を究明すべくPhotoShopで穴が開くほどホールディングを見直した。するとどうだ、安定感のあったトライではホールディングが浅く、セミアーケだった。親指を添えアーケで深くホールディングすればするほど、安定感を失っていた。

 

photoshop

 

このあまりにも繊細なソリューションが、五日目の福音足り得るか、それは分からない。しかしひとつ確かな事は、僕は五日目もなけなしの5トライを握りしめて百足に会いに行くだろう。五日目で足りなければ、六日目に望みを託すだけだ。六日目が駄目なら七日目。

変態?本当にありがとうございました。

モモンガキッド 5.11b

年末以来、およそ4ヶ月ぶりの聖人岩に行ってきました。都内の桜は完全に散ってしまたけど、越生は今まさに満開。バスから外を眺めるとソメイヨシノや垂れ桜が立ち並んで、花見気分MAX。

IMG_1936

本日のタクティクス

今日の目当ては「ウェーブ5.12a」。前回のトライから久しく時間が経ってるので、とりあえず「モモンガキッド5.11b」をサクっと登ってから入念にムーブを確認しようという構え。何事も慎重に万難を排すべし。ちなみに「ウェーブ」は「モモンガ」の核心を超え、お隣の「合掌」に合流する所謂繋げものである。

モモンガのグレードは5.11bと、12クライマーにとっては程よいアップである。しかも上述の通りウェーブの前半を確認できるため一挙両得。我ながら緻密なタクティクス(戦略)である。後は実行に移すのみ、いざモモンガへ。

スタートから始まる顕著なクラックを辿り数手の核心を突破する。核心後、フレークにドロップニーをねじ込みレストをするのがこのルートの洒落たところ。お洒落ムーブは押さえとかないとね!とレストしてみるが、、、まったく休めねー。あーでもないこーでもないといじくり倒してると逆によれてテンショ〜ン。レストしようとして逆に疲れるこのパターン。人はどうして同じ過ちを繰り返してしまうのだろうか。

とりあえず上部のガバを確認する。一見ガバ穴だらけだが、実はデコイも多く悩ましい。確実なガバを探し当ててロワーダウン。次に備える。

ムーブへの不安は特にないので軽くレストして2try目に突入する。スタートからの高強度ムーブをこなし核心を抜ける。そしてレスト。なんだけど、やっぱレストできないー。そもそもドロップニーとニーバーによるお洒落レストとか、お洒落スキル高すぎなんだよっ、ぐぬぬ、、、。となったところで本日二発目の無駄玉。トホー。この時点で本日のターゲットは「ウェーブ」ではなく「モモンガキッド」に自動的に変更。相性の悪いレストの事は忘れて他のムーブを探る。するとレイバックがジャストフィット。抜群の安定感でクリップもレストもこれ以上無くイージー。やはり合わないムーブには拘らず柔軟な発想で解決するのが良いのだ。

とりあえずレストってことでボルダーを触りに行く。130-140度のどっかぶりに7級から二段までが数本。どれも面白そう。「Thulala初段」のムーブを解析しようと試みるが一人だとちょっと手に余る印象。恐らくフェース中央のピンチを取りに行くと思われるが、そこに至るムーブが謎。本気で取り組むとレストにならないのでワイフの7級トライを冷やかして終了。再びモモンガへ。

三度目の正直とすべく、精神統一して取り付く。ヨレが気になるが出来る限りリラックスしてムーブをこなして行く。そして核心を超えレイバック。少し手順を間違えたが予想通りの安定感。危なげ無くクリップをこなす。ローカルクライマーの山屋さんっぽい声援に押されながら、精査しておいたガバ帯を抜け終了点へ到達。無事レッドポイント。

回収しながら「ウェーブ」のトラバースムーブを解析。親の仇みたいな激痛ポッケを使わない方法をさぐる。先ほどの山屋さんにヒントを頂き、探ってみるとそれらしいムーブを発見。当初の目標には遠く及ばなかったが、次回へのポジティブな材料を得た。

外岩むずい

やっぱ外岩、正確には外リードは難しい。ボルダーはジムだろうが外だろうが、同じ精神状態で登れる一方で、リードに関してはそれが出来ない。今回も早々にレストを見切るべきだったが、柔軟に対応できなかったのは経験不足が原因だろう。まだまだ岩に呑まれてるなー。んー。

色々と反省すべき事や学ばねばならぬ事があるようです。そういえば二度目のフォールで山屋さんが「あそこまで言ったら強引にジャミングで突破できるよ!」と教えてくれた。ジャミング、噂には聞いていたがまさか本当に使い手が存在するとは…だれかクラック教えてくんねーかな。