その仰々しい名前のを聞いたのは去年の暮れだったか。「スパイダーマン 5.12a」に何もできず敗退し、江戸川橋の二階で居並ぶ13クライマーにボヤイてた時だ。
「あんな細いホールド、持つところも立つところもない」「普段のクライミングとカルチャーが違いすぎる」「ムーブとかあるんですか?(どーせ地味ムーブだろ!)」「無駄に怖いっす」
今思い出しても糞ヘタレクライマー発言だったと記憶している。しかし寛大な彼らは、僕が登るべき一本として「生と死の分岐点」を推してくれた。城山はチューブロックの看板ルートだ。凝灰岩特有の程よいフリクションと明確なホールドに導かれ、薄かぶり断崖を登る。左手には「白壁の微瑕」を末端に大きな空が広がり、眼下には大仁の街。行った事のない城山だったが、「これしかない」と思った。
ムーブ探り
年が明けて、ドラパイセンと早速「分岐点」へ行った。UEちゃん、ノブたん、ワイフも一緒だ。初めての城山は、ストレッチスペースがなかったり、落石に神経を使ったり、難点もあるが魅力的な課題に圧倒された。
とりあえず「イスタンブール」「椿の森の中で」「ワイルドX」でアップをこなし、いよいよ「分岐点」へ。先行トライしていたクライマーのドローをお借りしてスタート。もちろんOS狙いである(真顔)。
スタートとなる大穴ポッケから、アンダーを取って足上げ。ドローが目の前にあるがクリップなんて無理。テキトーに周辺のポッケを掴むがやはり厳しい。早々に行き詰まる。辺り構わずホールドを探した挙句、何も見つからないままパンプによりA0。あっけなくOSトライは幕を閉じた。
すぐさまムーヴ探りに移行するが、遅々として解析が進まない。それもそのはず、アンダーからクリップを含む数手がこのルートの核心だからだ。ホールドはどれもこれも悪い。左奥のガバポッケは12bで登る場合は限定と聞いていたので迷ったが、結局キャッチ。これで12aとなった。しかし已然として厳しい。
その後、A0クリップを連発しトップアウト。ロワーダウンしながらムーブをさらに解析するが「ホントに繋るの、これ?」感はMAX。まったく繋がるイメージを持てずにドラパイセンに「これ、もう1便出しますよね(や、なんつーか、他のに浮気するのも選択肢としてアリじゃないすかね、あ、もちろんモチベーションはバッチリっすよ!自分、全然折れてないっすから)」と伺うと、パイセンはきっぱりと言った「もちろん!」
というわけで長レストを挟んでの2トライ目。「2トライ目はなぜかスムーズになる」の法則に従い、比較的スムーズに核心を抜けようとするが、クリップでもたつき、足置きが雑になりテンション。再度トップアウトしてムーブを固めていく。
他のクライマーのトライを眺めながらムーブを錬りつつ、太陽が傾き始めた頃に3トライ目。まだムーブが固まっていないが体は限界。行けるとこまで〜と思っていたら案の定ヨレヨレ。それでもなんとか核心を抜けてクリップまで進む。しかしもう何も残っておらずテンション。いつまでたってもパンプが回復しなかった。
一方、ドラパイセンは圧倒的完成度で核心を抜け、「あ、これRPするな」と思ったところで惜しくもフォール。さすがに4便目は無理と撤収。核心のパワーとバランスを要求するムーブが想像以上に体幹を削るようだ。帰りはUEちゃんが提案した「クライマーしりとり」に興じているとあっという間に東京。
生と死の分岐点 RP
二週間後、再び城山。今回はUE、ノブに変わりましてMサカ氏。前回同様「ワイルドX」に加え「クロスロード」でアップ。前回より風が少なく暖かい。天候まで味方につけ不安要素は皆無、と浮かれていた。この時までは。
そして気合いの1便目。「一応、ムーブ確認便なんですが、調子が良ければそのまま….」とドラパイセンに言おうとすると「皆まで言うな」という視線に促され、スタート。
アンダーから、危なげなくクリップをこなし、スムーズに核心を抜ける。これはいけるんじゃないかと次のクリップへ。だが決まらない。まごつきながらもなんとかクリップをこなし、手を進める。しかし、パンプした腕が回復せずフォール。
トップアウトして再度ムーブ確認。すると、フォールしたパートが「あれ、こんな悪かったかしら」と豹変。一瞬、気が動転するが心を落ち着けて確認する。やはり悪い。典型的な「気に留めてなかったムーブが後々になって自己主張してくるパターン」だ。だが今回は頼れる兄貴、ドラパイセンが居る。兄貴の的確なアドバイスによって劇的に解決。
ロワーダウンしてドラパイセンとバトンタッチ。相変わらずの安定感で核心を抜け、足が切れるも耐えて繋げる。「あ、これRPするな」と思ったところで惜しくもフォール。奇しくも的確なアドバイスを頂戴したそのパートでだ。とは言え、お互いにムーブは固まっているので二人して長レスト。
ところが昼を過ぎた頃から風が吹き始める。更に太陽が雲に隠れて極寒タイムに突入。しかもこんな日に限ってダウンは洗濯中。
ようやく風が収まってきた頃、ドラパイセンの2トライ目。抜群の安定感で核心を抜け「あ、先越されたな」と思ったところで驚愕のフォール。デジャヴの様な展開に周囲も動揺を隠せない。
そして風が再び強まる中、運命の2トライ目。「寒いんで声出しまくりでいきます」の宣言通りシャウトしながら核心を抜ける。クリップをこなし上部へ、ガバポッケを捉える。しかしまだ気は抜けない。限界近くまでパンプした前腕と、たたらを踏む膝を繊細にマネジメントし、慎重に立ちこんでゆく。最後の核心である右手ポッケへのデッドにさしかかるが、パンプの度合いからデッドは不可能と判断。左手で薄カチをだましながら、細心のバランシームーブで捉える。最後まで集中力をキープしつつ、リップへ。シャウトする必要はないんだけど、とりあえず叫んでおいた。
ダイナミックさと繊細さのバランスが程よく、特に後半のパンプに耐えてスタティックに高度を稼いでいくパートは充実する。おもしろかった。グレードに関しては厳密には5.12aってことになるのかな。ようやく12クライマーを名乗る事ができましたよっと。
グレイシー 5.11c OS
Mサカ氏の「ストーンフリー 5.10c」OSを見届けた後、隣の「グレイシー 5.11c」にトライ。ボルト2本の見るからに紐付きボルダーといった印象。ひょっとしてOSできるんじゃね?と取り付いてみるとあっさりOS。気持ちよいスローパーと安心感抜群のガバによるボルダールートでした。正直な所、「ワイルドX 5.10a」や「クロスロード 5.10a」より簡単に感じてしまった。
こいつは間違いなくMサカ氏にはオススメ度ナンバーワンだと猛プッシュ。すると案の定RP。外リード二回目だそうですが流石としか言いようがない。
最後にドラパイセンの3トライ目を見守るが、やはりヨレが顕著。残念ながら宿題となった。夕方になると風が止み、昼間より暖かい日差しの中撤収。次は「白壁の微瑕」をやるかな。