海沢谷 ーキャンパと胎内くぐりー

 
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私の愛読書「東京起点沢登りルート120」によると海沢谷は遡行グレード2級、ピッチグレードⅣ+と記されている。奥多摩に於いてこれを上回るグレードは存在しない。即ち、奥多摩最難の沢である。(遡行、ピッチともに同じ三郎ノ岩窪道があるため同位最難)

さらに登攀不可能とされている大滝(20m)、不動滝(10m)、枠木滝(10m)を突破した場合、一体どれほどのグレードになるのか想像もつかない。大滝に関しては流石に現実味を感じないが、枠木滝には十分な可能性を見いだせるし、不動滝も何らかの解決策があるような気がしてならない。実際に今回の遡行では「登攀不可」とされているネジレの滝で水線突破を達成した。兎に角、この沢の可能性に思いを馳せると胸が高鳴らずにいられないのだ。

 

キャニオニングと三ツ釜の滝

さて前日、私は良く眠れなかった。理由は前述した通り、海沢への熱い思いが故である。眠い目をこすって少し遅い9:30に入渓。程なくして三ツ釜の滝に到達、登攀を開始する。しかしそこで目にしたものは..

(つд⊂)ゴシゴシゴシ

(;゚д゚) ・・・

ビキニ姿の女性達であった。(これが噂に聞くキャニオニングというものかっ...)
優れた格闘家は周辺視野が常人より大幅に広いと言う。死角からの攻撃に備える為だ。何の話かって?もちろんルートファインディングに関してである。深い釜を眺めながら、左壁を注意深く抜けた。

 

ネジレの滝

 
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三ツ釜をこえると程なくしてネジレの滝に到達。海沢は全体を通して歩きが少ない。「東京起点〜」によると右岸から高捲きとなっているが、webで調べるとゴルジュ内部の右壁チムニーを抜けられるようである。とりあえずゴルジュ内部へ進む。前衛滝の左壁トラバースも面白い。

ゴルジュ内部は仄暗く神秘的というより不気味。実はオカルトチキンな私は「この中に白装束の女がいたら…」などと考えなくても良い事を思い浮かべつつ、極力ワイフの側を離れないようにした。

そして奥のCS滝をオブザベーションすると、あるではないか、ホールドが。それも比較的ポジティブな印象である。いても立ってもいられなくなり、白装束の女が居そうなゴルジュ左奥から回り込み滝直下に立つ。釜はあまり深くない。落差は6-7mといったところだが、釜の深度を考えると緊張感が増す。ロープを付けていないので軽い偵察のつもりだった。この時までは。

 
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右壁から登攀を開始すると予想通り快適なホールドが続く。しかし垂直部が終わり、上部のスラブに入ると一気にホールドが乏しくなり、突っ張り以外に有効な手だてが無い。クライムダウンも考えたがCSまで進めば終わるだろうと考え、フリーソロのまま前進、CS直下へ潜り込んだ。だが、この判断はあまり賢明ではなかった。

CS直下で一息ついた後、さてCSをマントルするかとホールドを探るが、あまり良いホールドが無い。CS直下から這い出てホールドを探したいが、僅か1m足らずのクライムダウンが容易ではない。足下はあいかわらず滑ったスラブでスリップしたら最後、6-7m下の浅い釜に落ちるだろう。乏しいホールドでマントルを返せない事も無いがあまりにリスクが高い。

上部からお助け紐を垂らしてもらうしかないかと諦めかけたとき、死中に活を見いだした。

CS奥には流木が詰まっている。初見では通れそうに見えなかったが、川床とCSの間隔は狭くない。流木を撤去する事が出来ればどうやら体が通りそうである。唯一の望みをかけ、賢明に流木を取り除いた。するともくろみ通り、人一人分のスペースが。こうしてマントルではなく胎内くぐりにより突破に成功。

改めて考えると、カムを決める余地は十分にあったので、他にも解決策は存在しただろう。しかし胎内くぐりによる突破で、非常に個性的な登攀となった。

一方で今回の登攀はリスクを取りすぎたと反省している。特にフリーソロに関しては致命的な事態を引き起こしてもおかしくはない。充実感はあったが反省点も多い登攀となった。

 

大滝と不動滝

少々ほろ苦い感傷に浸りながら大滝に至る。あり得るとしたら左壁が登攀ラインだが、あまりに現実味が無い。高捲きは右岸から、途中の灌木でピッチを切り2ピッチで越える。

 
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大滝を抜けると不動滝。登山道からは見えないため遡行者だけの特権である。下部まで偵察に行かなかったが、どうやらハングしている様子。次回、じっくりとオブザベーションしたい滝である。

 

枠木滝とキャンパで高捲き

 
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そして最後の難所にして核心である枠木滝。ここも高捲きが一般的であるが、右壁から左壁にトラバースし、左壁を登れば水線突破できそうである。いや、むしろそうあるべきだ。とワイフに力説するが、「おまえちょっと反省しろ」という意見をにより、おとなしく高捲き。だがここで、史上最高の高捲きを体験する。

まずは右岸の草付きから高捲きを開始する。ルンゼを抜け、灌木でピッチを切る。既に高度は落ち口に達しているのでここからはトラバースとなる。通常は一度懸垂下降し登り返すのだが、ダイレクトなトラバースラインが見える。薄くハングしたフェイスにガバホールドが続き、加えてランナーは信頼性十分な灌木である。このラインこそが「自然な登攀ライン」だと思えてならない。

そして、おもむろにトラバースを開始、右手に大きな棚があるが遠い。細かい足を拾うべくホールドを探すが保持しているのは10級レベルのガバホールドである。ジムでもそうそう出てこないドガバだ。次の瞬間、選択肢は三点支持ではなく「キャンパ」に変更。沢登りにあるまじきダイナミックムーブで突破を果たした。

 

再び三ツ釜の滝

枠木滝以降は水流が細くなるのでこの時点で登攀終了。軌道を辿り下山。海沢園地まで降りずに三ツ釜の滝上部に合流。目的はもちろん、「キャニオニング」である。

 
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登攀でも使わなかったゴーグルを装着していざスライダー。
最後までおいしい海沢谷であった。


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