開放的な沢は樹林帯のそれとは違った魅力がある。3000m峰の稜線で味わう爽快感に近いが、またひと味違う趣だ。登攀的要素も重要だが、源頭に近づくにつれ広がっていく感覚、これこそが最大の魅力だと思っている。その手の沢と言えば上越方面がまっさきに思い浮かぶが、今回は体力的事情によりコンパクトな沢をセレクト。「那珂川源流 井戸沢」を遡行した。
恐怖核心
前日発で都内から深山ダム入り。ダムへの峠道にさしかかる頃にはジャスト丑三つ刻。ワイフの手前、気丈に振る舞っているがハンドルを持つ手に汗が滲む。仕事のBGMとして稲川淳二を聞いたことを激しく後悔するが後の祭りだ。あと少しでダムというところで突如、真っ暗なトンネルが現れる。トンネル内に照明はなく、涙目になりつつ通過。ようやく深山ダムに到着するがガスに霞んだ湖畔は心をざわつかせる。極めつけは公衆トイレ。いったい誰が丑三つ刻にこのトイレを利用できるというのか。いつもとは違う意味で恐怖核心であった。
熊注意(ガチで)
翌日6時起床、車で林道終点まで。そこから入渓地点へ小一時間。熊の出没が多いようで林業のおじさん達から何度も注意喚起を促される。出来るだけ大きな声で話しながら三斗小屋跡に到着。石灯籠や鳥居のある不思議な場所で夢とも現ともない不思議な雰囲気。大日如来像に安全祈願をして一服入れる。
入渓
9:30登攀具を装備して入渓。すぐに井戸沢出会いとなるが水流がまったくないので確信が持てない。一旦峠沢を偵察遡上した上で井戸沢と判断して入る。堰堤までは完全に伏流が続き、わずか5−10分にも関わらず汗が噴き出す。ちなみに「東京起点 沢登りルート120」の遡行図には堰堤は記載されていないので注意が必要。
核心は末広の滝15m
堰堤を越えると水流が復活し、F1-3m滝となる。ほどなくしてF2-15m滝、井戸沢核心となる末広の滝が現れる。水線突破を探ってみるが右壁はブランクが続く上に、ヌメヌメ。左壁はクラックがあるが脆そう。そして抜けがかなり悪そう。大人しく右壁から巻く。
末広の滝以降はしばらく小滝と癒しのナメ滝。やはり水量が少ないようで全体的にヌメりがち。10m級の滝を越えていくが、ホールドが豊富なのでヌメりを気にせず快適に登攀できる。
18m階段状滝
そしてようやく18m階段状滝。遠目には登攀困難に見えるが近づいてみるとなるほど快適なテラスが豊富。ここもヌメりが酷かったが問題なく突破。その後も快適に小滝を越え、気がつくと源頭の雰囲気となる。最後のトイ状滝を越え枯れ沢となってからの詰めが想像より長かったが、ほぼコースタイム通りに稜線へ抜ける。
稜線へ
稜線上では2000m未満とは思えないスカイラインにトンボが舞っていた。
雲行きが怪しいので早々に下山。大峠から峠沢を下降。下降中に雷雨となり待避も検討したが、川幅が広くゴルジュが存在しないため水量に気を配りながら継続。無事に入渓地点へと帰還。ゆっくり駐車場へと戻った。
色々と内容の詰まった遡行でしたが、熊にも遭うことなく増水に流されることもなく、無事に下山できたのは三斗小屋跡でお参りをしたご利益でしょうか。そんな三斗小屋跡ですが、調べてみると歴史的に複雑な土地のようです。調べるほどに現地で感じた不思議な感覚が色濃くなる、真夏の径でした。