この世には二種類の人間がいる。
スラブを愛する者と、スラブから愛される者だ。
この日、黒岩を訪れたのは低傾斜界の重鎮 – UEchang aka Srabista -。いうまでもなく後者に分類される人物である。彼を案内するのは「キメイラ 5.12a」。天高くそびえるスラブは天国へ続く階段のようだ。
梅雨目前の転戦
当初の予定は甲府幕岩だった。榛名黒岩はすでにシーズンオフだと思っていたのだ。しかし前日に山梨方面の予報は雨へと崩れる。反対に群馬方面の予報は好転。偶然とは思えない展開に翻弄されつつ、最終的に榛名黒岩を選択。
翌朝、小雨が舞う関越道を不安げに北上し高崎で高速を降りる。すると乾いたアスファルトに雲の切れ間からは太陽。この男、どんだけスラブに愛されてるんだよ。
しかし、思わぬアクシデントが発生。落石防止工事で林道が一部通行止め。40分程歩くこととなった。なんすか?ツンデレってやつですか?
無名 5.10d FL
予定外のハイキングをこなして9時頃現場に到着。東壁の「無名 5.10d」でアップ開始。リード慣れしていないUEchangが果敢にマスタートライ。ホールドを探すのに苦労しながら高度を上げて行く。終盤は黒山名物の埃まみれホールドに面喰らいながらも無事MOS。続いてFL、回収する。
ボランティア 5.11a MOS
交代して隣りのラインを登る。出だしのクラックにフィンガージャムがバチ効きでテラスまで快適に上がる。じっくりとムーブを錬り、ダイレクトラインで抜ける。
そしてUEchangと交代、こちらもテラス以降のムーブをじっくりと錬るがホールドの見当が違ったかフォール。体力温存の為に回収する。
舞姫 5.11b 2RP
そしてもう一本イレブン前半をトライ。オブザベーションでは上部核心と予想したが実際には下部核心。序盤の外傾カチを保持しながらも足がスリップしてフォール。ムーブを探ろうかと考えたがロワーダウンしてグラウンドアップに拘ってみる。
ほぼレストなしで再トライ。外傾カチを保持して手を進めるがまたしても悪い。更に進めて何とか突破。上部は予想外に素直だった。安定して5.11bをMOSできるようになるにはもう少しだけ経験値と集中力を高める必要がありそう。
キメイラ逢瀬
そしてお待ちかねスラビスタ on キメイラ。
生い茂った木の葉に岩頭が隠され、春先より高く遠く感じる。「うわっ!? こんなに!? 高くない!?」と興奮を隠せないスラビスタ。面喰らったような物言いとは裏腹に、当然のようにノーヒントでマスタートライを始める。
やや高い1ピン目を丁寧に掛けて順調に2ピン目へ。そして核心へ入って行く。しかし安山岩が不慣れなためかホールドがなかなか見つからない。とりあえず3ピン目をクリップして更にムーブを探る。試行錯誤の結果3ピン目付近へ突入、核心へ向かう。
しかし既に長時間のムーブ探りでヨレが見え始める。更にその先は微妙なホールディングが続く。流石に初見では突破出来ずフォール。その後、あーだこーだとホールディングやらムーブを試行錯誤。下からもそれとなく「俺の時はその足を〜」とかアドバイスを送るが帰宅後に動画を確認すると全く別のムーブ。とんだ妨害工作であった。
とは言え3トライ目で核心は解決。しかし体力的に繋げるのは厳しく、次回へ持ち越しとなった。ちょっとスラブからの愛が重かったんじゃないかな。
ラーコンナ 5.10b MOS
キメイラの右隣に位置するスラブラインだが、ルンゼ状クラックにプロテクションを取りながら登った。出だしはチムニーからハンドサイズになり、最後は適当に抜ける。終了点は絶景。
サルバドール 5.13a 初トライ
そして本日の高難度強傾斜課題。そういえば真面目にアッパーグレードをトライするのは久しぶりな気がする。とりあえず「5.13aってどんなのもんなの?」を確かめるためスタート。
威圧的な強傾斜カンテで1ピン目までは緊張感が高い。必要以上に力が入るがとにかくクリップ、ほっと一息してテンション。しかし地上からは持てそうに見えていたホールドはことごとく極悪。カンテ側のホールドも遠かったり甘かったり。探りながら2ピン目まで進む。
高度が上がるにつれ傾斜は緩くなってくるがホールドは悪くなる一方。ヒールを駆使し3ピン目まで進む。地上からでは2ピン目までが核心と踏んでいたが一向に強度は下がらない。
強傾斜のハングドックでヨレるのを感じながら試行錯誤してムーブを探って行く。遂に3ピン目を付近を突破し、後はリップを取れば終わりだっと思っているとまたしても「地上からは持てそうに見えたんですけど」なホールド。これが13aってやつなんですかね。
フルリーチで直接リップをたたけば一瞬だけ保持できたが突破する体力は残っていなかった。時間のことも考えて今日はここまでとした。
大スラブ中央クラック 5.9 2P
〆は2ピッチのマルチ。既に5時をまわっていたが夏至の恩恵を最大限に生かすべく登攀開始。事前情報がなくカムの必要数も不明だったが隣接ルートから回収も可能と踏む。
1ピッチ目はボルトルートを快適に辿る。2ピッチ目は#1,#3,#.5あたりをセットし、最後はグサグサに錆びたRCCボルトにクリップ。終了点が目前に見えているが最後のワンムーブを見つけるのに苦労して抜ける。部分的に痺れたが充実のクライミングだった。
所感
というわけで今日もスポートルートに始まり、トラッド、マルチピッチ、限界グレードトライと多彩なクライミングを楽しめました。
最近は一日で5本以上初見のルートを登るっていうのが楽しくてしょうがないけど、一方で限界グレードより高難度をトライする機会を伺ってもいました。そんなわけで梅雨入り前にその機会を得れたことは非常にうれしい。
「サルバドール」はずっと気になっていたルートだが、触ってみた印象は基本的にポジティブ。全てのムーブを解決したわけではなく、むしろ今回詰めなかった部分こそが最大核心な気もするけどそれでも期待と希望は大きい。
しっかり夏の間に準備して秋にがんばりましょう。