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秋のマルチピッチ

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瑞牆の名作マルチピッチ「ベルジュエール 5.11b 10p」に行ってきた。

「行ってきた」という言葉から察せられる通り、オンサイトやレッドポイントではなくあくまでもトップアウトである。瑞牆の厳しさを全身で味わってきたんだぜ。

 

最低気温零度

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当初は10月頭を予定していたがずれ込んで10月も3週目。すると天気予報では最低気温0度、午前8時でも4度とかいきなりの冬模様。厳しい登攀になることを予想しながら備えた。

蓋を開けてみるとさすがに0度ってことはなく、5-6度だったが依然として寒いことに変わりはない。アプローチで暖まった体も登攀準備を整えているとすぐに冷えてくる。1ピッチ目の出だしを往復してとりあえずのアップとする。

そして1ピッチ目5.11bに取りつく。果敢にもオンサイト狙いである。気合い十分だったが中間部でしょうもないスリップをやらかしてフォール。寒さでフットホールドを捉えきれなかった。そのままフリーで抜けるが核心部と思われる部分でさらにフォール。結局2テンションでトップアウト。

 

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トラッドスタート

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2ピッチ目5.10aからトラッドが始まる。とはいえショボくれたピトンを頼りにスラブを進む痺れるピッチ。気温はまだ低く肝を冷やしながらS兄貴が抜ける。続いて3ピッチ目は潅木の生えた歩き混じりの5.7。

 

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そして4ピッチ目5.9は最後にスッパリと綺麗なクラック。一見簡単そうに見えるが若干斜めに進むクラックと最後のシンハンドに苦戦。落ちるかと思ったがなんとかオンサイトに成功。

 

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白クマのコルを挟んで5ピッチ目5.10a、大フレークをS兄貴が大胆なランナウトで抜けていく。フォローは回収が厄介。

そして悪名高い5.8チムニー。この数ヶ月、このピッチが放つ圧迫感を常に感じながら過ごした。「やばいと思ったら早めに諦めます」と告げ#6を持ってチムニーへ向かう。下から見上げるがチョックストーンでよく分からず、中間部にあるというリングボルトも見えない。

意を決してチョックストーンへ上がると意外にも快適、リングボルトも見つけることができた。だがもちろん錆びている。黒ずんだリングボルトにクリップしずり上がる。

チムニーは少しづつ狭くなり身動きが取れなくなっていく。ロープの流れが悪くなるがチムニー奥に#6を決めてT字スタックやらチキンウィングやら、本で読んだだけのジャミングを試す。もちろん全く効いてこない。

すでに疲労困憊、荒い呼吸をなんとか整え分速数センチで這いずりあがる。メットが引っかかって首を回すのも一苦労。脱水で足が攣りそうになるのを必死で誤魔化す。もっとチムニーの練習をしておくんだったと心の底から反省した頃にようやく上部チョックストーンに到達。ガバだが激しい疲労感から必死でマントル。いやー奮闘した。

 

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完全に出し切ったがまだ終わらない。ブッシュ帯を経て8ピッチ目5.10bは先行きが見えない左上クラック。脱水気味の体にザックが重くのしかかるが見上げると青空がどこまでも高い。最後は岩稜歩きを経て5.8をバテバテで超える。

 

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終了点から眺める大ヤスリ岩がなんつーかH.R.ギーガーのクリーチャーみたいだった。

 

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簡単には登らせてくれないとわかってはいたが予想を上回るハードワークで、植樹祭を6時に出発して帰着は17時。クライミングで11時間行動なんて記憶にない。

さて、次はもちろんレッドポイントを狙いに行くのだが色々と改善点も見えた。装備に関してはもう少しギアを減らそう。クイックドローとマイクロカムは減らせるはず。反対に水は一人750mあったほうがいい。終了点は把握できたので以外と時間のかかったピッチ間の連携は短縮出来るだろう。今回は花崗岩からやや離れていた(最後に瑞牆に来たのが一ヶ月以上前)ので、次回はもう少しこまめに花崗岩を登ってから挑みたい。とはいえその辺は冷え込み同様、お天気次第なんだよな。

いつかサラリとレッドポイントできるように励みたいと思います。

匠と怒濤とゴンベイ

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シーズンインにはまだ早いがカサメリ沢へ行った。「まだ暑いんじゃねーの」と口元まで出かかった言葉を呑み込んでお付き合いいただいたSAT6師匠とINO氏には頭が上がりません。

午前中はガスっていたが午後は快適。存分に花崗岩で指皮を削ってきました。

 

コセロック

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アップは定番のコセロック。白虎、青龍を登りたかったが下部がシットリ。バットマン取り付き部に至っては激しく染み出している。少し順番を待って「トータルリコール 5.10b」を再登する。2回くらい登ってるはずだが核心部はアドリブ全開。

続いて隣の5.10b。取り付きはびしょ濡れ。ガバ足にはナミナミと水が溜まっている。比較的濡れていない足を探して登る。結果、面白いムーブになったのでこれはこれでアリ。

INO氏は掛け替えの練習をしてロアーダウン。

 

怒涛のレイバック 5.11b RP

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アップ後、まだ登ったことのないコートダジュールへ移動。南に面しているが林のおかげでオランジュのような灼熱ではない。看板課題の「怒涛のレイバック 5.11b」に取り付く。

オブザベーションでは「中間部からが怒涛セクションなんじゃない」とか言っていたが、出だしからハンパない怒涛っぷり。加えてシケシケスメアにしっとりガバホールド。凹角に入り込みレイバックを作るが手も足もすっぽ抜けそうなフリクションである。実に恐ろしい。

パワフルなムーブと緊張感で呼吸が激しく乱れ、奮闘の末テンション。OS狙いだったがやや条件が厳しかった。その後、中間部のトラバースパートで危うくハマリかけるがなんとか打開。フレアードクラックをこれまたバランスの悪いレイバックで抜け、上部は炎天下のスラブ。ポジティブなホールドを探しながら慎重に抜ける。とりあえずトップアウトはできたがムーブは非常に荒削り。

続いてSAT6師匠がFLトライを開始。流石の登りで最適なムーブを次々と解明していく。勘所をしっかり押さえた匠のクライミング。勉強になるわー。

そしてINO氏。このコンディションでボルダラーにレイバック課題をやらせるのは酷ってもんだが果敢にもトライ。テンション入れつつも粘ってフレアードクラックまで。

2トライ目に入ると岩のコンディションが唐突に良くなり、シケシケスメアもしっとりガバも格段に良い。加えて匠ムーブの恩恵によりあんなにキツかった下部をスルリと突破。トラバースパートで手順を間違えるが、手堅く修正してフレアードクラックへ。ここでも匠のアドバイスを存分に活かして危なげなく突破。最後のスラブ面を着実に繋いで無事RP達成。

SAT6師匠もサクッとRP。ドロップニーフットジャムニーバーとでも言うべきお洒落なムーブを披露して登っていた。

INO氏は色濃いヨレ感を醸しつつトップロープでトライ。初回より圧倒的スムーズに抜けて無事終了点まで。リードでRPできたんじゃないかと思うほど安定していた。

 

りかちゃんバンザイフレーク 5.11a MOS

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〆のつもりでこれまたレイバック課題。ボルト二本目までがバランシーで緊張する。そこから数手も迷わされる展開。フレークに入ってからもクリップ体勢が見つからずハラハラするが大きく足を上げて打開していく。3P目を過ぎたあたりからハンドジャムもバチ効きで快適。最後のスラブ面がこれまた一癖あって充実の一本だった。

 

 

ごんべい4 5.11b TO

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シメたつもりだったがSAT6師匠のトライを見ているとどーしても自分もやってみたくなり、泣きの1トライ。師曰く「出だしからチョー怖いんですけど」という出だしのムーブは悪くて怖い。その後も典型的な花崗岩プッシュ系がメンタルと手皮を削ってくる。そして傾斜が緩くなったところで師曰く「てっきり核心終わったもんだと思ったらコレだよ」な絶妙のフリクションクライミングがスタート。

時期が良ければ突破できたかもしれないがここでフォール。あの手この手のムーブを試すが手も足も甘い。こいつは涼しくなるのを待つしかないかと諦めかけたが、なんとか最適ムーブを発見。次回が楽しみなルートとなった。

最近、この手の立体的スラブとでも言うべきルートが本当に楽しい。実は「怒濤のレイバック」より楽しかったかもしれない。下部の恐怖パートもいいアクセントだ。カサメリにはゴンベイシリーズが四本存在する。以前はテキトーな名前つけやがって、と思っていたが今ではシリーズコンプリートを密かに狙っている。

 

カンマンボロン

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ビッグウォールクライマーであるビッグ・サカイ氏の「LOL 5.13a」をビレイしている時、頭上から灰色の物体が降ってきた。てっきりロープの切れ端と思っていたそれは、羽毛すら生えていない産まれたばかりの雛鳥だった。脳天が割れすでに事切れていたその子には、やけに長いかぎ爪が備わっていた。おそらく猛禽類だったのではないだろうか。

カンマンボロンは絶命危惧種ハヤブサの営巣地である。もちろん雛鳥がハヤブサであったと断定はできない。ただ、幼く孤独な死を見るのは心が痛い。しばし合掌したのち、そっと土に埋めた。

 

水不足

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永福町から首都高速に乗ると電光掲示板が水不足を知らせていた。利根川が取水制限になるとか書いてある。水不足はよろしくないが、おかげでこうしてクライミングができる。とは言えコンディションは期待できない。当初はマルチピッチを視野に入れていたが山間部はどんよりと重い雲がのしかかっている。結局シングルピッチに変更することになった。

 

スラブ 5.10c MOS

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アップは「ハヤブサ 5.13a」の1ピッチ目、スラブ5.10cを登る。バランシーで面白い。最後の抜け口もワイルドで個性的。瑞牆の大岩壁にやってきたことを感じさせる。

カンマンボロンは初めてだったが、この日は次から次にパーティがやってきた。前回大面岩で3パーティしかいなかったのとは対照的。

 

NEXT LEVEL 5.11d RP

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砂のエリアは混んでそうなので隣にあった30mのラインに狙いを定める。日本離れした貴重な一本である(海外の岩場行ったことないけど)。

出だしは90度前後でホールドはポジティブな印象。弱点を突いてやや蛇行気味に乗っ越していけそう。一方、ボルトはほぼダイレクトに伸びている。ラインの選択はクライマーのルートファインディング次第、といったところか。

オブザベーションの印象をサクっと交換してサカイ氏がマスターでスタート。弱点を突いて乗っ越しを抜けて行く。核心は予想通り乗っ越しだったようだがどうもそのあとも悪そう。なにせ湿度も高い。じっくりレストを入れながら現場処理をこなして見事マスターオンサイト。

バトンタッチしてフラッシュトライ。もちろん気合十分…のはずが出だしでまごつく。予想よりポジティブじゃない、と思ったがよく見たらホールド発見。ややバタついたが核心直下へ入る。手順を間違えたかバランスが悪い。レストを入れ突入するがホールドがフィットせずまたしてももたつく。苦し紛れでムーブを起こすがフォール。勿体無いトライだった。

ホールディングの確認と掃除してロワーダウン。上部は未知のまま残す。

そして2try目。イメージしたホールディングとムーブで核心へ入る。やや強引だがそのまま押し切ってテラスへ。十分にレストできるスペースでこの先に待ち構えるラインを読む。集中力が切れないように呼吸を一定に保つ。

その先は明確に覚えていない。シケた浅いホールドに耐えてレストポイントへ向かい、そしてまた次の悪いホールドに耐え次のレスポイントを目指す。という展開を数回繰り返して終了点へ到着。

FLは逃したが自分のムーブでグランドアップできたのは嬉しかった。トポでは30mと記載されているがもう少し短い気がする。おそらく25m前後。

 

LIFE LINE 5.12a FL

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続いて本日のハイライト、これまた長〜い12a。トポには「ルートを間違わなければオンサイトもあり得る」とあるので、先ほどと同様ルートファインディングが鍵となりそう。一方、下部のホールドは細かくボルト間隔もなかなか渋い。

さっきと全く同じ流れでオブザベーションおよび意見交換、そしてサカイ氏のマスタートライ。予想通り2ピン目付近が悪い。下手なことをするとグランドフォールもありそう。一旦クライムダウンしてもう一度オブザベーションを仕切り直す。

今一度ホールドを確認し再出発する。もちろんオンサイトトライは継続中。ドローにロープがあるので幾分緊張感は和らぐが、依然悪いトラバースを抜けて上部へ向かう。慎重にルートファイディングをこなし着実に高度を上げる、そのまま完登。流石の登りである。

そして前述の「NEXT LEVEL」完登後、十分な時間を空けて僕のフラッシュトライ。

ビレイ中にキーホールドを見てしまっているので、比較的スムースにトラバースを抜ける。とは言え悪いものは悪い。中間テラスまで気を吐きながら抜け、レスト体勢へ。十分に体力を回復させ長い旅路へ向かう。ホールドは予想よりポジティブ。一瞬、勝ちを意識したが甘い考えだった。

一手進めるごとにホールドが細かくなり足使いも極めてシビア。もちろんホールドは湿っぽい。弱点を突きながらホールドを辿るとやや右巻きとなるが、当然の結果として左へ戻るトラバースが現れる。最終クリップは足下数十センチ。追い打ちをかけるように足を滑らせるが耐えに耐えて望みを繋ぐ。さらにモヤっとしたホールドまで出てきて心は折れる寸前。

落ちたくない一心で薄カチを握り倒す。だが、このままでは気力も体力が保たない。深く息を吐き、落ちてもいいから力まないように気持ちを切り替える。不安定な体勢でシェイクを入れ、流れが来るのを待つ。ジワジワとムーブを起こし進んでいくとお約束のようにガバホールド。だが終了点は見えてこない。

タタラを踏む膝を堪えながら、今にも抜けそうなホールドをだましてムーブを繋げていく。遂に終了点が視界に入ったが、最後のカチが微妙に遠い。ここで雑になると間違いなく落ちるだろう。他に使えるホールドやムーブはないのか、何度も探るが最後は肚をくくる。

一度レストポイントに戻り呼吸を整える。大丈夫、アレはきっとポジティブなカチに違いない。最後はそう信じる以外にない。気を吐きながら捉えたカチは十分にポジティブだった。しかし自分の前腕は風前の灯、とても長居はできない。見渡すと完璧なガバが目に入った。もはや雑でも構わない、ガバを鷲掴みにしてマントルを返す。最後の力を振り絞ってジワりとテラスに立ちこんだ。

曇った空の先に青空が少し覗いていた。

 

LOL

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その後、砂のエリアに移動すると予想通りの賑わい。(そうはいっても10人に満たない)

名前どおり大きな砂山のような石塔がそびえ、中間部には顕著なハング。トポを見ながら各ラインをながめ最右端の「LOL 5.13a」を触ってみることにする。

サカイ氏がマスタートライを開始するが出だしから悪い。中間部まで抜けるが次はプロテクションが遠い。あーだこーだとムーブを探るが上部のフレアしたクラックは極悪の様相。落ちると当然のロングフォール。何とかトップアウトするが、降りてくると同時に「これ、再登者少ない筈だよ」の一言。

もはやヨレヨレ&充実感MAXだったが、せっかくドローもあることだし一回だけトライしてみる。予想通り出だしからハード。岩の表層も不安定で粒子がポロポロと剥離していく。そして下部もそれなりにプロテクションが遠い。上部に付いたころには既に身も心もズタボロ。

「本当に怖いのは上部、是非味わってくれ」と熱い推薦を頂戴していたが、ロクにムーブを起こせず。トップアウトすら許されなかった。

 

ボロンボロン 回収便

残った時間は風のエリアや周辺の偵察。最後に「ボロンボロン 5.11c」をトライ。もちろんオンサイト狙いだったが、ボロボロなのは岩じゃなく自分の方。終了点直下の核心でフォール。これまたボルト位置が低くて墜落距離が長い。流石にムーブを起こすのは諦めてマイクロカムを極めエイドで抜ける。

オンサイトを逃してしまったが、エイド登攀はそれはそれで楽しかった。最後の最後にひと仕事終えたような、奇妙な充実感に浸った。

梅雨時にフラッシュグレードを更新したのはとても嬉しいが、この日も色んなクライミングが楽しかった。そこにはアプローチやエイド登攀も含まれている。以前は打ち込んでいる課題を一日中打っていることも多く、頭の中はそのことでイッパイだった。そういったスタイルが嫌いなわけではないが、もう少し余裕をもって課題や岩場と向き合ってもいいかもしれない。かつての自分は、落ちてきた雛鳥を見てどう思っただろうか。

「Rock&Snow #063」に掲載された「希少猛禽類営巣地の保全について」では、ハヤブサの営巣期間はクライミングの自粛を提案している。ヨセミテでは既にそうした規定があるようだ。本文中では「3月初旬から5月末まで」を自粛期間として提案しているが、今回の個人的体験と、ヨセミテが3/1 – 7/15を基準としていることを考えると5月末では早すぎると思う。少なくとも6月いっぱいは営巣期間である可能性が高い。

いずれにせよ、期間や範囲については専門的な知見をもって公式な指針が出されることを望む。カンマンボロンを初め、瑞牆、そして多くの岩場がいつまでも登れる場所であってほしい。

次は秋晴れの空を終了点から眺めようと思う。

大面岩 左稜線

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梅雨にはいっちまった。毎年のことだが実にアンニュイ。

当初の予定では「ベルジュエール 5.11b」のトライを目論んでいたが、天気予報を何度もチェックした結果「大面岩 左稜線 5.10c」へと変更することとなった。

とは言え、内心ほっとしたんですが…

ベルジュをガッツリ楽しむにはもうちょっと場数を踏みたいって思いもありまして。

 

謎のボルトラダー

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午前5時、植樹祭から瑞牆山を見上げると上部は完全にガスの中。この期に及んで燻っていたベルジュへの未練は完全に鎮火し、粛々とアプローチを開始。通い慣れたパノラマコースを辿る。

「ベシミ」を打ち込んだ昨シーズン、カンマンボロンの大ハングを見上げなが「いつか必ずあの大岩壁を登ろう」と強く思った。

もちろん今日の目的は大面岩である。だが、意外な展開からカンマンボロン登攀のチャンスは巡ってきた。ま、俗にいうアプローチミスってヤツですがね。

大面岩基部に到着してもガスは晴れず、視界は一時50m以下。岩壁の全体像は把握しづらく、カンマンボロンと大面岩は予想よりも隣接していた。そして接続部にはチョックストーンが挟まり、これをトポに記載されているチョックストーンと誤認。結果、カンマンボロン右稜線を大面岩左稜線と誤認することとなる。

 
IMG_3607[接続部のチョックストーン]

 
勘違いしたままカンマンボロン右稜線に乗り上げると古びたボルトが上部へ続いている。相変わらずガスが濃く位置関係を把握出来ない。とりあえず登攀を開始するが、人気ルートにしては風化が激しい。何よりもプロテクションがクッソ錆びていてフリーで抜けるにはリスクが高すぎる。A0で抜け灌木でピッチを切り作戦会議。

取りつきに失敗したのは間違いないってことで、ガスの切れ間から本来のラインっぽいのを探す。そして下降を決断。

 
IMG_3609[風化しまくり]

 

スラブ 5.8

IMG_3618[左稜線2P目取付]

 
仕切りなおして目星を付けたラインを探しに行く。フィックスロープやトレースをトポと照らし合わせながら程なく2P目5.8の取りつきを発見。一同胸を撫で下ろす。

9:40頃にS兄貴リードで「大面岩 左稜線 5.10c」の登攀が始まる。スラブを抜けるとルンゼ状3級、ここでリード交代。いつの間にやらガスは晴れていた。

 
IMG_3622[2P目出だしから上部を望む]

 

スラブ 5.10a

出だしが分かりにくかったがトポと照らし合わせて木登りからテラスへ這い上がる。基本的にほぼ歩き。ズルズルとロープを引きずりながら前進。とにかく流れが悪い。最後に5mほどの個性的なトラバースをこなしてピッチを切る。残置ハーケンにプロテクションを取ったら一段と流れが悪化。ロープの引き上げが過去最大級に大変になる。

 

カンテ 5.10c

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そして数字上の核心パート。S兄貴が「バランス悪いけど面白いなー」といいつつ抜けて行く。カンテから入ってスラブへ左上する面白いピッチ。岩も硬く純粋にフリークライミングが楽しめる。そのまま次も繋げられそうだが「独り占めするわけにはいかないからね」と交代。あざーす!

 

カンテ 5.10b

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んで本日のハイライト。出だしにボルダーを乗っ越して露出感抜群のカンテを登る。難しくはないが丁寧にホールドを探して高度を上げていく。前ピッチ同様、岩が硬く快適なフリークライミング。

 

スラブ 5.10a

つづいてトラバースから直上。トポ通り出だしのトラバースが恐ろしい。上部はデリケートなスラブ。灌木帯でピッチを切り、最終ピッチとなるチムニー〜OWへと歩く。

 

OW 5.10a

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順当に考えてS兄貴パートなのだが「やってみてもいいんじゃね?」と仰るので何を血迷ったか俺氏突撃。

チムニー内はジットリと湿っぽい。頭上には小さな空。まるで幽閉されたかのよう。

遥か頭上の空を目指してズリズリと這い上がる。バック&フットで高度を上げていくと次第に幅が狭くなりチムニーからOWへ。ヒール&トウ、チキンウイングなど聞きかじったムーブでは太刀打ちできない。全身全霊を込めて次のリングボルト(もちろん錆びてる)まで前進してドローをセット、力尽きてテンション。

その後、心折れそうになるも兄貴のアドバイスでヨレヨレになりつつ何とかフリーで突破。水分不足と疲労困憊で終了点作業中に何度も右手が攣った。

 

完登

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OW以降は簡単な岩稜歩きで頂上台座まで。ピーク左手のボルダーから乗っ越して下降地点へ。この日は空いていたのか他のパーティは二組だけ。先行パーティの下降をのんびり待ちながら絶景を堪能した。

コルから取りつきへ戻る道中にもカッコいい岩壁やらボルダーが無数にあって大興奮。瑞牆山のポテンシャルは底知れないなーと再確認した。

 
IMG_3672[佐久間の塔下部の洞窟]

 

調和の幻想

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声にだして読みたいルート名十選の常連である「調和の幻想 5P 5.10a」を登った。

ハンドからOWに至る各種サイズのクラック、カンテにディエードル、フェイスにスラブ、そして木登りまで。長いジャムセクションこそないが変化に富んだ濃厚なクライミングを味わえました。

濃厚すぎて翌日は食傷気味(つまり筋肉痛ってこと)。

 

1P 5.9+ 6:45

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5時に植樹祭広場を出発して6時ごろ到着。じゃんけん大会でS兄貴が奇数ピッチ、私が偶数ピッチと相成る。装備をチェックして6時45分にクライムオン。

7時前から荷物を背負ってのクライミグは想像よりきつい。岩も冷たく体がうまく動かない。こんなんで大丈夫かとちょっと不安を感じながらのスタート。

 

2P 5.8 7:10

2p目、リードの出番がやってきた。不安をかき消すようにスタートするが出だしがワイド気味で大変。なんとか乗っ越してプロテクションをとる。朝露の影響かフリクションが悪く手も足も座りが悪い。

ビビりながらも枯れ木のテラスに抜ける。

 

3P 5.9 7:40

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すこしづつ気温が上昇してきた3p目。ルートファインディングが必要なピッチを着実な読みで抜けていく。フリクションもよくなってきたようだ。

 

4P 5.10a 8:20

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数字上の核心ピッチ。出だしの木登りをみた瞬間「あ、これやったことありますよ」と得意ムーブ発言。意気揚々とチムニー登りでクラック下部へ。

蛇行したラインをたどりクラック中間部でプロテクションセット。そこからが悪くゼーハーと喘ぎながら上がっていく。カムに交えて心もとない灌木にもランナーをとる。なんとかOS。

 

5P 5.9 9:10

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そして本当の意味での核心ピッチ。フレアしたクラックが口を開けて待っている。兄貴がカムをずらしながらジワジワと上がっていくが非常にキツそう。上部のOWもこれまた。

フォローはゴボウ確定と思っているとプロテクションの必要がないのでレイバックで快適。しかしOWだけはA0となった。

 

IMG_5313[フレアしたクラックで#6をセット]

 

完登 10:30

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岩頭に抜けると日差しが眩しく、いつの間にか太陽が高い。懸垂下降3回で地上に降りると11:20、大休止を入れる。

 

継続登攀

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本日の大一番は無事に登ることができたが、目標とする「ベルジュエール」は2倍の10ピッチを擁する。ここからが本番とばかりに継続登攀を開始。疲労感を無視して「錦秋カナトコルート 5.10a」へ向かう。ついでにベルジュエールの取りつきと燕返しのハングを確認してカナトコへ。

カナトコ取りつき付近は炎天下。本チャンっぽい1p目を兄貴。上部の風化が著しく「調和の幻想」とのギャップに戸惑う。

2p目は私。小さめのカムで奮闘しながら上部のクラックに到達するがスローピー。ガクブルの足を踏ん張るがエッジングできずフォール。くやしー。

合計7ピッチを登ったところで行動終了。10ピッチには満たないが途中の下降や継続へのアプローチなど諸々の行程を勘案すると「ベルジュエール」は射程圏内じゃないだろうか。

大面岩方面のピークに立つクライマーを望みながら一服する。

 

IMG_5353[おれもあそこに立ちたい]

 

懸垂下降一回で地上まで。その後撤収してガチャ分けするが疲労感が半端なく、あらゆる動作が平時の80%くらい。のろのろと余韻に浸りながら下山した。

 

IMG_5362[振り返ればモアイフェイス]

 

高嶺の湯で疲れた足をほぐしながら、なんか懐かしい疲労感だなーとおもったら縦走山行のそれに似ていることに気がついた。城山のスポートマルチでは感じることはなかったが、トラッドマルチは「登山」をした感覚が色濃い。

スポートマルチもトラッドマルチも基本的にフリークライミング主体のアクティビティだが、後者の持つ圧倒的な「山を登った感」はどう説明すればいいんだろう。瑞牆山というロケーションがそうさせるのだろうか。

うまく言語化ができないが、子どもの頃に憧れた「ロッククライミング」という行為に最も近いのは多分、これだ。

 

トポにないライン

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自由な発想で面白そうなラインを登った。

初登とか開拓とかってやつじゃなく手元のトポにはないけど登ったら楽しそうなやつを掃除してトライ。なので名前とかグレードは書いてはみるけど「個人の感想です」って塩梅でお願いします。

ちなみに本当は「眠った風」とか「ガルーダ」をがっつり打つ予定だったけどフリクションがね…今年の春シーズンはあっという間に終わっちゃったなーと強く思いました。

 

おやつのじかん

IMG_5143[おやつのじかん]

 

手始めにキッズ課題。簡単に掃除してトライ。大人だとリップに手が届いてしまうが5−10歳くらいにはちょうどよさそう。

登られた形跡はほぼない、というか大人はやらないだろう。「これ、ショトーなの??」と彼らの鼻息があらいのでハイハイと流していると「おやつのじかん」という名前を付けていた。

ついでに左隣りのラインをトライ。しかしマントルを返せずプロジェクト入り。いつか完成させてくれ。

 
img[プロジェクト]

 

しめった風

ひとしきりキッズと戯れた後、先住岩に上がって「眠った風」をトライ。到着直後はフリクションは良好。核心ムーブもサクサクとつながる。

しかし時が経つにつれ瞬く間にフリクションは低下。平地からの風が山頂付近でガスになっている。とんだしめった風である。ホールディングが定まらないと痛めている右薬指が不安。案の定スプーンカットで嫌な負荷がかかる。

気合いでピンチ取りまで繋ぐがクロスが出ない。深追いせず終了。

 

生き仏SD(仮)

img1[生き仏(仮)]

 

先住岩上部にあるルーフクラック「現人神」取り付き付近の岩小屋を登る。SDスタートとして使った棚は上部のルーフとは独立した岩だが気にしない。ジムナスティックなムーブが楽しめるいいライン。マントルも程よい。体感4-5級。

登られた形跡はあまりなさそう。とりあえず「現人神」にちなんで「生き仏」とした。(情報をお持ちの方がいらっしゃればお知らせください)

その隣にランジ課題を見出したが手も足も悪くて敗退。初段以上はありそう。

 
img2[ランジプロジェクト]

 

現人神を見上げるフェイス

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なんとなくキジ場っぽい枯葉たまりからスタートするフェイス。潤沢なガバでこれまたジムナスティック。体感5-6級。

こちらはスタートホールドに明確なチョーク跡。割と登られている様子だ。しかし普段とは別の意味で下地が気になる。

他にも可能性が見出せそうなハイボールやスラブが4,5個くらい。また来よう。

 

ポール・ロビンソン

IMG_5173[優しげなイケメン現る]

 
午後は「ガルーダ」を打ちに阿修羅岩。前回スタートに成功したので今回は初手止め。足位置を修正してごにょごにょしてるとNEXXOを持った物静かな白人男性が現れる。

「お、おれも同じのもってるよ、それいい靴だね!」とか思ってるとよく見るとポール・ロビンソン。そりゃあNEXXO持ってるわけだよ。

なにやらプロモーションで瑞牆に来ているらしく、スタッフの女性が「サインもらいますか?」とアゲアゲで提案してくれるので流れに任せてマイNEXXOにサインしてもらう。

ポールはハンパなく小顔のイケメンであった。

ちなみにガルーダの初手は一瞬止まりそうになった。もうちょっと打ち込んでみたいな。

 

路傍のクラック

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山形県エリアからパノラマコースを辿ると道端にあるクラック。トポにはないけど間違いなく登られてるやつ。ジャミングしなくても登れるけど是が非でもジャムをキメて登りたい。体感は10級くらい。めっちゃ快適。

 

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さらに上部にハイボールなスラブ。こちらも掃除バッチリなので登られてるっぽい。最後の窪みがガバなのかスローパーなのか下からは判断できず。クライムダウンして敗退。

そんなこんなで割と楽しい1日だった。

サーキットの狼

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兼ねてから温めていた計画をついに実行に移す時がきた。そう、ボルダーサーキットである。

「アルパインクライミング考 (横山 勝丘 著 )」で紹介されていたボルダーサーキットについて、S兄貴と盛り上がったのは去年の暮れ。当初はマルチピッチトレーニングの一環くらいの位置付けだった。

しかし、色々と準備を進めていくうちに「ひょっとして我々はとんでもなく楽しいことをやろうとしているのではないのか?」と期待値は上がった。

その後、課題を選定しタクティクスを考えたり妄想を膨らませていると、「初見の課題に対して体力と精神力と集中力を全力でぶちこんで、踏破ならぬ登破を成し遂げたい!」というモチベーションがフツフツと沸き上がり、もはやトレーニングの一環ではなくサーキットそれ自体が目的となった。

そしてGW目前の週末、例年より新緑の早い瑞牆にS兄貴とHSyungと共に降り立った。初見という条件を満たすためハットエリアを舞台にV1からV5までの20課題を厳選し、ボルダーサーキットがここに開幕した。

 

オロチ V5 FL

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序盤戦は「オロチ V5」周辺のボルダー。去年ちょろっとだけ訪れこの辺りは確認済み。

とりあえず「みのりんカンテ V1」「みのりん凹状 V1」「ミズガキハイ V2」などでアップして本日の第一核心「オロチ」へ向かう。S兄貴とHSyungが目を丸くして「え?これじゃないよね!?そうだよね?」という表情を向けているが気づかないふりだ。

「ま、ハイボールは早いうちに打った方がいいから」と彼らの目を見ないでセッション開始。

顕著なポッケとカンテ際のスローパを確認して気合いをいれる。サクッとフラッシュ。上部の緊張感も程よい。S兄貴とHSyungも無事RP、幸先のよいスタートとなった。

正直なところ、早々に敗退課題を出したらどうしようとか思っていたけど心配無用。みんな強かった。

そして「マッドステップ V2」「ホワイトシャーク V3」を程よい緊張感で登り、「ガビンアレート V3」でジムナスティックに遊ぶ。どれも面白い課題だった。

 

IMG_4902[スラブの苔は気にしないのがマナー]

 

穴くまじろう V5 RP

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中盤戦は林道上部に移動。一本手前の踏み跡から入ったため迷う。30分ほどの岩探しを経てS兄貴が穴くまじろう岩を発見。

「段々フェイス V2」のポジティブなカチでフェイスクライミングを楽しみ、胎内くぐり&枯葉ラッセルで「穴くまじろう V5」へ抜ける。見事なポッケホールドと強傾斜に惚れ惚れ。

初手とリップ取りを失敗するが、3トライくらいでRP。非常にいいラインだった。トポにあるように背面の傾斜がなければ見栄えのいい世界的課題だったかもなー。

その後 「森とら V3」が狭すぎるのでリップトラバースに過大解釈し、「スティープファンタジー V4」は地面から三角カチに手が届いたのでそのまま抜ける。この二つ、トポに明確な記載はないが前者はクラックのみ、後者は薄カチスタートと思われる。…ヤバイくないすか?

 

IMG_4930[カチが悪い]

 

そんごくう V5 OS

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さらに上部に上がって「クリスタルキング V4」、マントル部が苔むしているが気にしない。余裕があれば「ダイアモンド 凹角 V6」「山ガール V7」を冷やかしたいところだったが時間が押しているのでスルー。

「ちょはっかい V2」を快適に登り、予定にはなかったが隣の「そんごくう V5」に心惹かれサクッとオンサイト。ガンダーラ岩は魅力的なラインが豊富なのでまた来たいと思う。

 

山のアナアナ V3 OS

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そしてサーキットも終盤戦へ。尾根を越えるとハイボールなスラブが目に入る。「山のアナアナ V3」である。程よい高さと美しいスラブにヒャッハーしているとS兄貴、HSyungの両氏からドン引きされる。

丁寧に足を拾ってリップへ上がるとのっぺり。慎重にマントルを返す。S兄貴とHSyungもきっちりRP。やはり終盤こそスラブ、それもハイボールが面白い。

踏み跡を下りながら「マントル練習 V1」「マントル入門 V1」で基本をおさらい。マントルは重要な技術です。

 

穴課長 V4 OS

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空模様が怪しくなってきたあたりで最後の核心「穴課長 V4」にトライ。最後の穴が遠く、これまたマントル核心だったがしっかり完登。おまけで「ケロモリスラブ V2」「スラブ右 V1」を登り、全20課題をコンプリート。

ほぼレストを入れないまま、7時間半に及ぶボルダーサーキットは幕を閉じた。

 

 

本気のエンクラ

冒頭で紹介した「アルパインクライミング考」の受け売りだが、クライミングはちょっとした工夫や視点を変えることによって楽しみ方は無限に広がる。

つい最近までボルダリングではエンジョイクライミングは成立しないというスタンスだった。限界グレードに挑戦する以外に高い充実感を得る術はないと考えていたのだ。しかし、今回の経験を経て入念な計画とタクティクスがあれば限界グレードや高負荷のムーブがなくとも非常に充実することがわかった。

そう、エンクラも本気でやれば最高に楽しいのだ。

また一つ新たなクライミングの楽しさに目覚めた気がする。なによりもそいつが嬉しい。(そろそろ限界グレードも打ち込むけどね)

阿修羅

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シーズン最後の瑞牆は最低気温マイナス5度/最高気温6度。最後を飾るに相応しい冷え込みっぷり。

車内ではR&Sに掲載された「千日の瑠璃」と倉上氏のことでINO氏と盛り上がる。互いに「おれも男泣きするようなクライミングがしたい!」と熱量を溜め、寒さ対策とした。

 

アップ核心

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しかし皇帝岩に着くとまだ日陰。日向を求めて花畑エリアまで下る。

一向にクライミングシューズに履き替える気にならないが、この程度の寒さで萎えてるようでは男泣きはできない。意を決して履き替える。

すると面白いほどスメアが効きスラブが楽しい。「花畑」向かいのスラブを数本登り「ラフレシア」を冷やかす。以前中腰スタートしかできなかったスタートだが、ヒールからトウに変更すると完全SDが可能となった。とは言え皇帝が目当ての我々は早々に移動。

皇帝を打つが二手目の感触がイマイチ。ムーブが短いので体が冷えるのも早い。しばらく打って阿修羅へ移動。

 

阿修羅 初段 RP

正直に告白すると前回マントルで落ちて以来、あまり前向きではなく塩漬け確定かと思っていた。だが、そんなヘタレを再び奮い立たせてくれたのが前述した「男泣き」である。そこには「マントル返せばいいだけだから今更…」などとのたまうヘタレマントル野郎はいなかった。

上部のポッケにゴミが詰まってないことを確認して早速1try目。足上げまで順調に進むが上手くフットホールドを踏めずフォール。

 

そして、短いレストを挟んで2try目。

初手がやたらと伸びる。こんなに近かっただろうかと思っていると、マッチの右手がクラック上部に届きそうになる。あわてて手順を修正、足上げからアンダーポッケへ繋げる。

さて、ここからが本題。気合をいれて体幹を締める。そっと荷重を移動させ上部へ伸び上がり、ほぼ何もないスローパーを中継。ジワっと上部ポッケに到達した。

一気に緊張感が高まる中、手を進めてマントルに入る。前回はここで落ちた。実際には落ちずに木に挟まったわけだが、集中力を切らすまいと渾身のマントルを返し、登りきった。

完登できた嬉しさはもちろん、マントル落ちした課題に対し積極性を取り戻せたことがなによりだった。男泣きできるほどのカタルシスは訪れなかったけど、そいつはいつかきっとやってくるだろう。

 

背骨岩

その後、背骨岩の「背伸び運動 3Q」「スケルトン 5Q」を股関節の柔軟性全開で完登。簡単だが高さのある上部も楽しい。

皇帝岩

4時頃に皇帝岩に戻り、日が暮れるまで皇帝。二手目を足で立ち上がり取りに行くがあまり良い感触がない。結局、ランジで完全に引きつけるのが正解に近そう。ただし、ランジの溜めでは壁に入りすぎないほうが吉。

ジェラ&1000氏と合流して、すっかり日の早くなった瑞牆を後にした。

 

所感

IMG_3770[ラフレシアをご一緒させていただいたワンちゃん]

 
つーわけで、最後にご褒美をいただいた締めの瑞牆。涼しくなるのが早かったこともあり、9月の中頃から12月上旬までガッツリ登れたことにも感謝したいと思います。

看板課題にして室井氏最高傑作といわれる「阿修羅」がシーズンラストってのは出来過ぎな気もしますが、今後のクライミングスタイルを考える上で非常に示唆的に思えました。

春に戻ってくるときは「生命力」を触ろう。そして、「スラッシュフェイス」と2年越しの決着を。

癋見

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ヒールをスタートに置いた瞬間、これまでとは違う圧倒的な”何か”を感じた。

フリクションだけでここまで感触が良くなるのだろうか。相変わらず遠い初手だが、止まらないとはもう思えなかった。全てのホールドとシークエンスが密結合しているような、最高に”繋がっている感”が伝わってくる。

突き上げてくるムーブへの欲求を鎮め、やや間を置く。そして、迷いなく放った初手は、乾いた音を立てて止まった。

すかさずフットジャムをねじ込んで左手を送る。右手がややズレたが修正しないままドロップニーからサイドカチへ。そしてヒールフック。あまりに効きが良かったのか、ふくらはぎが軽く攣る。しかし呼吸を整えそのままシークエンスを繋ぐ。リップ直下のカチを気を吐きながら捉え、前回出せなかった一手をリップへ送った。

一瞬シェイクを挟んだあと、冷静にマントルを返し、スラブを小躍りしながら駆け上がった。

 

 

 

四度目の正直

 
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2014年の瑞牆ラストシーズンに偵察して以来、一年に渉って最重要課題であった「べしみ 二段」はシーズン終了間際、拍子抜けするくらいスムースにRPすることができた。

春に一度、秋に二度、着実にムーブの完成度を上げていった結果、最大の鬼門であった初手もほぼ完璧に決まり、11月初旬にリップ直下へ迫る。あいにくヨレ落ちを喫するが完登が近いことを確信する。

しかしその後、三週間に渡って天候と体調が整わず、ナーバスな日々を過ごした。

そして管理棟も営業を終了した11月末、四度目の週末に挑んだ。一段と冷え込みを増した瑞牆は抜けるような青空の下、最高のコンディションにあった。霜柱を踏みしめながらアプローチを上がると、ひとけのない大面岩下は凛として佇んでいた。

最高のコンディションの中で、このレベルの課題を完登できたことは感無量だった。おつきあいいただきました皆様、本当にありがとうございます。

そして限界を突破させてくれた課題と初登者に心から感謝と敬意を示したいと思います。

 

 

二段の壁

 
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首尾よくベシミを完登した後は「消費者 二段」「皇帝 二段」をセッション。どちらもハードな二段だが、「皇帝」のほうが可能性を感じた。二手目のムーブをもう少し洗練させたら振られを耐えられる可能性が高い。

年内は後一回行けるか行けないかだが、二段というグレードは着実に近づいてきている。それは超えられない壁ではなく、十分に楽しめる対象だ。

強くなることが全てではないが、より素晴らしい課題を登るために強くなりたい。そんな思いに対してご褒美を貰ったかのような、そんな日だった。

倶利伽羅竜王

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シャープなランジプロブレム、倶利伽羅岩の「竜王 一級」を登った。

パワー全開と決めつけていたスタートは実はテクニカルで、届くと思えなかったリップは絶妙の距離感と形状を擁していた。まさに、隠れた名課題ってやつだった。

「カラクリ 初段」から「倶利伽羅 初段」、そして「竜王 一級」を経て倶利伽羅岩の三課題はここにコンプリート。気がつけばカラクリの完登から2年が経っていた。

とまあ、さも狙いにいったような書きっぷりですが、実際には本命「ベシミ 二段」に全力で弾かれた上にエンクラな二日目に降って湧いた完登。いやー安定のマントルヘタレでした。

 

耐寒キャンプ

今回の主題は晩秋の瑞牆で鍋キャンプ。

メンバーはスラビスタとイズミとマイファミリー(チョーナンは合宿)。子連れで行くには過酷じゃないかと心配されるが、きりたんぽ鍋であったまればいいよ!と言い切る。

だが、きりたんぽはどこにも売っていなかった。自家製も考えたが、比内地鶏も手に入らないので鶏塩鍋に変更。前日は仕込み祭り。

 

胃痛と失意の敗退

当日はゆっくり現場入り。山腹にガスが漂いなんとなくモイスチャー。山形エリアの童子岩で遊んで大面岩下へ上がる。

到着すると見知った強強クライマーが大挙。潤沢なマットを前に宿願のベシミと相対するが、謎の胃痛が発生。ナベさんの完登をガンバしつつ小一時間ほど横になるが一向に収まらず。痛みに耐えながらトライするが胃液が逆流する。挙句にガスが降りてきてフリクションも下がる一方。まったくいいところなく下山。

 

銘酒・谷川岳

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凹んでもしょうがないので、鍋の準備を進める。炭火で焼き味噌きりたんぽを焼く予定だったが、フランスパンを焼いてチーズと一緒に喰らう。なにも登れてないのに旨えー。

そして、鶏鍋。サミットで仕入れたフツーの国産モモ肉がこれまたプリプリ。鍋もうまいが炭火焼も絶品、先日頂戴した純米大吟醸谷川岳との相性も抜群。

 

 
呑んで喰って、あれよあれよと酒と食材が尽き果て〆はラーメン。予想より暖かく無風だったため、ゆったり焚き火を楽しんでコーヒー飲んで就寝。

 

DAY.2

翌日もどんより。こりゃー今日もフリクションは悪いだろうなーと思って「スーパークーロワール 7Q」をやってみると、スメアがすっぽ抜けそう。イズミ君のクーロワールトライを眺めつつ「夜をまちながら 2Q」をだらだら打つ。

ホールドが痛い上にフリクションも悪く、どーにも高度が稼げないでいると「光合成」に弾かれたスラビスタがサクッと再登。「今日はなんか悪いね」的なことを言っちゃあいるが何ら不安要素のない登りっぷり。負けてらんねえと意地で上部のカチまで到達するがそっからカンテを使ってトップアウト。プスー。

今日は(も)ダメだーと思いながら移動し始めるとINOさん登場。我らの宿願、ベシミを完登しての凱旋である。チキショー羨ましい!とは言え、おめでとうございます。

 

竜王 一級 RP

イズミ君に大黒岩を見せて「え、アレ登るの?おちたら死ねるよ?馬鹿なの?」という定番のリアクションを頂戴して倶利伽藍岩に上がる。

スラビスタが「カラクリ 初段」打つ裏側で「竜王 一級」にトライ。相変わらずスタートが辛い。右手首に悪いなーと思ってるとINOさんが遅れて合流。

「これ、コツものって噂ですよ」
「こういうのなんでもコツで済ますの止めようよ」

とか言ってるとなんだか腰が浮き始める。

「やっぱ壁に入らないとね!」
「なんども言うように人は壁に入れないから」

と定番のやり取りをする頃にはほぼスタートは解決。壁に入ってから上に向かう、二段階右折的なムーブ(謎)が有効なようです。

ところが、そこからリップへのランジもこれまた悪い。フットホールドの向きが悪く、距離は足りているが一向に止まらない。それでも試行錯誤を重ねつつ飛んでいると遂に止まる。この瞬間は二日間でもっとも歓喜にあふれた瞬間だった。

思いもよらず射程圏内に入った上玉をINOさんと共に喜ぶ。するとINO氏、いきなり次のトライで完登。えっと、そんなドSな人でしたっけ?

こうなっては登らないわけにはいかない。気合いを入れていざトライ。スルっとスタートしてビシッとランジを止める、完璧である。あとはマントルを返すだけ、少しヒールがズレたがそのまま返そうと手首を返すと、あら?ヒールが抜けてフォール。先日の阿修羅に続き下手すぎるマントルが露呈。

その後、指皮が熱を持ち始めリップが止まらなくなる。大事なトライをフイにしてしまったことを悔いながら指皮が冷えるのを待った。しかし時間は残り僅か、指皮はまだ熱かったが少しでも冷まそうと上裸になる。更にハイアングルのヒールがまだ馴染んでいないと判断してネクソに履き替える。

そしてスタート。リップで指皮がダレるのを感じたが何とか止めてマントルへ。深くヒールを決めて突入。すると今度は深すぎて最後まで返ってくれない。心が折れそうになるが意地で返して遂に完登。いやー落ちなくてホントによかった。

 

 
というわけで、意外な上玉をゲット出来たのは望外の成果でしたが、ベシミを登れなかったは非常に痛かった。

天候不良で二回連続延期となったのをきっかけにコンディションを崩してしまったのが最大の敗因。ちょっとくらい外岩に行けなくてもフィジカル、メンタル共にキープし続けるスキルを磨こうと、安易に呑みに逃げるなと、そう痛感した二日間でした。

 
え?谷川岳?まだまだあるよ!一升瓶だからね!(呑むとは言ってない